債券: 収益率(利回り)

1.今回学ぶこと

金融商品への投資を考える際、誰でもより大きな利益の見込めるものに投資したいと 考えるであろう。ここで問題は、どの程度の利益が期待できるかについて、商品間での 比較を行わなければならない点で、どのような尺度を用いるのが適切であるかという ことである。

素朴には、金額というのが分かりやすい尺度であるのだが、100万円 の投資に対して10万円の利益が見込めることと、1億円の投資に対して10万円の利益が 見込めることは、同じ10万円の利益であっても全く異なり、同程度の確率で同程度の 利益額が見込める投資であれば、多くの人は投資金額が少なくて済む方を選択する であろう。つまり、通常比較されるのは、利益ではなくて、利益 の方であり、一般に収益率(interest rate)とか利回り(yield)と呼ばれる。

このように収益率は、投資判断を行う上で重要な意味を持っているものであるが、 同じ商品の収益率でも、半年複利で計算したものと1年複利で計算したものは異なる。 今回は、収益率の複利ベースについて理解するとともに、債券の収益率の計算方法を 理解することが目的である。

2.複利ベース

収益率は年率で表すことが多いが、その場合に前提とする複利回数については、 色々な種類があることに注意しなければならない。例えば、1年複利の年率4%の 収益率は、1年ごとに元本が4%増加することを想定しているが、半年複利の年率4%の 収益率は、半年ごとに元本が2%増加する(年率4%だから半年では2%の増加にとどまる) ことを想定している。ある元本の1年後の価値を考えてみると、半年複利の年率4%の 収益率の方が、1年複利の年率4%の収益率より、大きくなることが分かるであろう。 逆に言うと、複利回数を同じにして比較しないと、どちらの収益率が良いかは 分からないのである。

これは、同じ商品の収益率を、例えば1年複利で表示するか、半年複利で表示するか という問題である。この商品に100万円投資したとすると、どちらの複利ベースで 考えても1年後の価値は同じになるから、1年複利年率をran、 半年複利年率をrsanとして、次の関係が成り立つ。

よって、半年複利を1年複利に変換したい場合は、上の式を変形して次のように すればよい。

同様に、3ヶ月複利年率をr3m、1ヶ月複利年率をr1mとすると、 これらは1年複利年率ranとの間に、以下のような関係が成り立つ。

以上の関係をより一般的に表すことを考えると、A円を年間複利回数kで年率rの資産に n年間投資した場合、そのn年後の将来価値は次の通りである。

ここで、年間利払い回数kを無限に大きくする(k→∞)、すなわち利払いが連続的に 行われるものとすると、次のようになる。

これは、次の関係を利用している(念のため)。

上の式の利率rを連続複利と呼んでおり、表現がシンプルで計算に使用しやすい ことから、よく利用されるので、1年複利ベースや半年複利ベースの利率を、連続複利 ベースにいつでも変換できるようでなければならない。 例えば、1年複利ベース年率ranと連続複利ベース年率rとの間には、 次の関係がある。

ここで、両辺からAを除し対数をとると、以下のようにして、1年複利ranは 連続複利rに変換できる(ただしlnは自然対数である)。

〜例1〜

半年複利年率5%を1年複利ベース、並びに連続複利ベースに変換する (四捨五入して0.001%単位まで)。

〜例2〜

連続複利年率6%を1年複利ベース、並びに半年複利ベースに変換する (四捨五入して0.001%単位まで)。

3.単利の収益率

単利とは、債券の購入価格と売却価格(例えば、償還価格)が分かっているときに、 年間平均的に何%の投資価格の増加が見込めるかといった概念である。 期中に得られるクーポン収入の再投資を考慮しないという欠点はあるが、 ある特定期間の損益を重視した場合には、有用な指標である。ちなみに、日本国債の 利回りは、この単利を用いて表示されることが多い。 債券の購入価格をP、年間クーポン収入をC、売却価格をF、保有期間をn年とすると、 単利での年間収益率rsは、以下の式で表される。

〜例3〜

2004年12月20日に満期をむかえる、元本100万円クーポン4.5%の国債があったとする。 この国債の2000年10月6日時点の価格(経過利息は考慮しない)が114.44万円であった とき、その単利利回りは以下のようにして計算できる。 なお、1年間の日数は365日とするので、保有期間は「実日数/365」年である (四捨五入して0.001%単位まで)。

*実日数の計算には、Excelの関数DATEDIF()を利用すると便利である。

4.複利の収益率

投資額と、その投資から将来発生するキャッシュフローの現在価値の合計を等しくする ような割引率のことを内部収益率(Interest Rate of Return)と呼んでいる。 債券投資に関する内部収益率は、欧米式最終利回り(Yield To Maturity)と 呼ばれることもある。年1回のクーポン支払いがある債券の1年複利ベース内部収益率 IRRanは、前項の記号を用いて以下の式で表される。

また、連続複利ベース内部収益率IRRcを用いると、以下のようになる。

内部収益率は、キャッシュフローの発生時点までの期間が整数年で、かつ最後の キャッシュフローまでの期間が3年までの場合に限り、解の公式を用いて 解析的に(言わば、紙と鉛筆で)解くことができる。それ以外の、一般的な場合に おいては、解析的に解くことはできないので、数値的に解かなければならない。

上のような内部収益率を定義する式を高次の代数方程式と呼んでいるが、 これを数値的に解くとは、適当な値(上の式であればIRR)で計算することを 何回も繰り返し、最も当てはまりの良いもの(誤差の少ないもの)を探すという ことである。本当に適当な値を選択してしまうと、無駄な計算をしてしまうばかりか、 いつ収束するか見通しも立たないので、値の選び方に関しては、幾つか有名な方法が ある。ただ、どの方法を用いるにしても、繰り返しの計算を行うようなプログラムを 記述し、コンピュータに計算させる必要がある。

数値的解法そのものについては次回学ぶこととし、今回はExcelの関数を使用して 内部収益率を求める演習を行う。定期的なキャッシュフロー(例えば、1年ごと)に ついては関数IRR()を、不定期に発生するキャッシュフローや日数計算が 必要な場合については関数XIRR()を使用する。得られる結果は、どちらも 1年複利ベースの年率である。

〜例4〜

10年満期で、元本100万円クーポン1.9%の国債があったとする。また、利払いは 年1回である。この国債の受け渡し日が今日で、価格が100.737万円であったとすると、 1年複利ベース内部収益率(IRR)は、以下の式で表すことができる。 (四捨五入して0.001%単位まで)。

この例は、国債の受け渡し日(決済日)が本日であることから、 将来のキャッシュフローは1年ごとに定期的に発生するので、Excelで計算する場合 には関数IRR()が利用可能である。関数IRR()の使用方法、並びに計算例は、 以下の通りである。

<関数IRR()の使用方法>

=IRR(キャッシュフローが入力されているセル範囲, 推定初期値)
*推定初期値は省略すると0.1(10%)が仮定される。


〜例5〜

1990年12月20日発行、2010年12月20日満期で、元本100万円クーポン1.9%の国債が あったとする。また、利払いは年2回である。本日の日付が2000年10月6日で、 この国債の受け渡し日が本日、価格が100.737万円であったとすると、 1年複利ベース内部収益率(IRR)は、Excelを使用して次のようにして求めることが できる。なお、この例では、1年間の日数を365日とし、休日は考慮しない。

<経過利息の計算>
債券のクーポンは、その支払日の所有者に支払われる。そのため、クーポン支払日の 間で債券の購入を行った場合は、直近のクーポン支払日から債券受け渡し日(決済日) までの経過日数分のクーポンに相当する金額を、前の所有者に支払わねばならない。 この厳密な計算のためには、クーポン支払いスケジュールへの休日の影響や、 1年や半年の日数定義を考慮しなければならないが、この例では、休日を考慮しない 実日数を用いるものとする。よって、計算方法は以下の通り。

  1. 利払い回数は年2回であるから、2000年10月6日からみた直近の利払い日は、 休日を考慮せずに2000年6月20日である。この間の実日数は108日。
  2. 次回の利払い日は、休日を考慮せずに2000年12月20日である。直近の利払い日から 次回の利払い日までの実日数は183日。
  3. 以上から、決済日に前の所有者に支払うべき経過利息は、以下の式で求められる。

<キャッシュフローの構築>
この例では、休日を考慮しないので、毎年6月20日と12月20日にクーポンの半分が 支払われるものと考えられる。この規則にしたがって、決済日(2000年10月6日)から、 償還日までのキャッシュフローを構築する。

<関数XIRR()の使用方法>
Excelで本関数を使用するためには、メニュー「ツール」→「アドイン」を選択して、 「分析ツール」をチェックしなければならない。関数XIRR()は、1年間の日数を365日 として、1年複利ベースの内部収益率を計算する。使用方法、並びに計算例は、 以下の通りである。

=XIRR(キャッシュフローセル範囲, キャッシュフロー発生日付セル範囲, 推定初期値)
*推定初期値は省略すると0.1(10%)が仮定される。



課題(レポートにして次週提出)

*日数計算に関して、1年間の日数は365日、休日は考慮しない ものとする。
  1. 1年複利ベースの収益率年率1.735%を、半年複利ベース、3ヶ月複利ベース、 1ヶ月複利ベース、連続複利ベースに、それぞれ変換しなさい。
  2. 連続複利ベースの収益率年率1.495%を、1年複利ベース、半年複利ベース、 3ヶ月複利ベース、1ヶ月複利ベースに、それぞれ変換しなさい。
  3. 2003年12月22日に満期をむかえる、元本100万円クーポン4.1%の国債があった とする。この国債の2000年10月6日時点の価格(経過利息は考慮しない)が110.425万円 であったとき、その単利利回りを計算しなさい。
  4. 2030年5月20日に満期をむかえる、元本100万円クーポン2.3%の国債があった とする。この国債の2000年10月6日時点の価格(経過利息は考慮しない)が92.566万円 であったとき、その単利利回りを計算しなさい。
  5. 20年満期で、元本100万円クーポン2.2%の国債があったとする。また、利払いは 年1回である。この国債の受け渡し日が今日で、価格が96.452万円であったとき、 1年複利ベース内部収益率(IRR)を計算しなさい。
  6. 15年満期で、元本100万円クーポン3.7%の国債があったとする。また、利払いは 年1回である。この国債の受け渡し日が今日で、価格が118.881万円であったとき、 1年複利ベース内部収益率(IRR)を計算しなさい。
  7. 1995年9月21日発行、2015年9月21日満期で、元本100万円クーポン3.7%の国債が あったとする。また、利払いは年2回である。本日の日付が2000年10月6日で、 この国債の受け渡し日が本日、価格が118.881万円であったとき、 1年複利ベース内部収益率(IRR)を計算しなさい。
  8. 2000年5月20日発行、2030年5月20日満期で、元本100万円クーポン2.3%の国債が あったとする。また、利払いは年2回である。本日の日付が2000年10月6日で、 この国債の受け渡し日が本日、価格が92.566万円であったとき、 1年複利ベース内部収益率(IRR)を計算しなさい。