市場リスクの評価

1.金融取引のリスク

 金融取引に関わるリスクには、信用リスクや市場リスクなどがある。信用リスクは、 取引相手が債務不履行(デフォルト)となるリスクであり、信用リスクの高い相手と 取引を行う際には、その分のプレミアムを受け取る必要がある。つまり、信用リスク 以外の全ての条件が同じ債券であっても、信用リスクの高い機関の発行する債券の 価格は、信用リスクの低い機関の発行する債券の価格よりも安くなる。 企業や国の信用リスクを評価し、その情報を提供している機関としては、国際的には MoodysSTANDARD & POOR'S、国内では日本格付研究所が 有名である。

 一方、市場リスクとは、金融市場における価格や金利の変動によりもたらされる ものであり、例えば金利水準が高くなれば債券価格は低下することから、債券には 金利リスクがあると言うことができる。このように、ある取引について、その価値変動 の要因となるものをリスクファクターと呼び、商品によって考慮すべき リスクファクターは異なる。ここでは、本演習で学んできた債券と株式オプションに ついて、基本的な市場リスク評価方法を学ぶ。

2.債券の金利リスク

 金利水準の変動によって、債券の価格は直接的に変化する。既に学んだ、債券の デュレーションは、金利の変化に対する債券価格の変動しやすさを表す指標であり、 コンベクシティーは、金利の変化に対するデュレーションの変動しやすさを表す 指標である。ただし、デュレーションもコンベクシティーも、全ての期間の金利が 同じで、かつ金利が変化するときは全ての期間の金利が同じだけ変化する (パラレル・シフトと呼ぶ)ことを仮定している点に注意が必要である。 金利が期間構造をもち、パラレル・シフト以外の変化を想定する場合には、 その債券のキャッシュフローを、キャッシュフローの発生時点の金利でそれぞれ 割引いて現在価格を求める分析が必要となる。

〜例〜

 10年満期、クーポン6%、利払い回数年2回の債券があり、金利の期間構造が図2の 通りであったとする。各キャッシュフローに対応する金利を図示すると、図1のように なる。なお、金利の表示は連続複利ベースである。この例について、金利が+1bsp パラレルシフトした場合、5年未満の金利のみが+1bsp変化した場合、5年以上の金利 のみが+1bsp変化した場合の、債券価格の変化を分析してみる。

図1 金利の期間構造とキャッシュフロー

図2 金利の変化に対する債券価格の変動

3.株式オプションのリスク

 ヨーロピアン・オプションの価格は、ブラック=ショールズ式によると、 現在の株価(S)、権利行使価格(K)、非危険利子率(r)、ボラティリティ(σ)、 オプション期間(T)により定まる。これらの内、S、r、σ、Tは、取引約定後将来に かけて変動するものであるので、全てリスクファクターとなる。ここで、 ヨーロピアン・オプションの価格Pが、以下の関数fで表されるものとする。

 S、r、σ、Tは、将来にかけて変動し、これに伴ってオプションの価格も変化する。 よって、オプションの価格変動dPは、テーラー展開により以下の式で表される。

 2次以上の項は微少であるとして無視し、残りの項を表1に示す記号で置き換えると、 次の式が得られる。表1に示す各項が、オプションの市場リスクを表す一般的な 指標である。

表1 オプションの市場リスク指標

δ(デルタ) 原資産価格(株価)の変化に対するオプション価格の変化率
Γ(ガンマ) 原資産価格(株価)の変化に対するデルタの変化率
ρ(ロー) 非危険利子率の変化に対するオプション価格の変化率
Λ(ラムダ) ボラティリティの変化に対するオプション価格の変化率
θ(シータ) 時間の変化に対するオプション価格の変化率